波崎ウインドファームにて
私は「ええ、今日もとてもいい風です」と応えました。
20年の仕事を終えた風車たちが、ゆっくりと風に回りながら、誰も来ない浜辺で静かに夏草に朽ちていました。

その駐車場は手入れを忘れられて久しく、旺盛な夏草に少しずつ押し包まれ、面積を減らしていました。
誰かが通った形跡がある場所もみな草に覆われて、展望台も、風車も、辿り着くことはできそうにありません。
「今年の3月に、廃止されたそうですよ」
「じゃあ、みんな今夏休みですね」
人の背丈をゆうに超える夏草の向こうには、古びた街灯と整然と並ぶ風車が続いています。
2004年3月に稼働を始めた12基の風車は、20年の仕事を終えて、2024年3月に稼働を終えたばかりだそうです。
ようやくおとずれた夏休みに、ゆっくりゆっくりと風を受け、直径60mの羽根を回していました。

「日が暮れそうですね」
「彼はまだ仕事をしているんでしょうか」
細い電線につながれた街灯は、長年潮風に吹かれて、ずいぶんと色を変えています。
夜は訪れる人も少ないだろう駐車場を、風車たちと共に、ずっと見守ってきたのでしょうね。
「そうかもしれませんね、街灯くんの夏休みは、まだ先のようです」

先ほどまで流れていた風が、熱気を帯びてゆるゆると緩んできました。
「そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
夕凪でてろてろと熱を帯びる影が、足下に伸びる先で、また会いましょう。
ではみなさま、今週も、よいしゅうまつを。
波崎ウインドファーム:
すでに登録済みの方は こちら