大子町のりんご園より

「やあ、いいリンゴですね」彼が、不意に指差したその先。
緩やかな坂の先には、なだらかな斜面に広がる一面のリンゴ畑がありました。
ばぶ&マト 2024.08.30
誰でも

ゆるゆると続く坂が大きく曲る角に、見事なリンゴの木が待っていました。

重たげにしなる枝に、たくさん、リンゴが実っています。

「このあたりは、リンゴがたくさん採れるんですよ」

「リンゴはもっと北の方だと思っていました」

「山を一つ二つ越えたら、もう、隣の県ですからね」

来た道を振り返ると、大分、峠道をのぼってきていたようです。

夏の日差しよりも、まるで水の中を漂うような、纏わり付く緑のにおいを濃く感じるのはなぜでしょうか。

どこか近いような、遠いような場所で、水の音がしました。

「坂の途中から森の中に入ると、小さい滝があるんですよ」

「ああ、なるほど」

「でもこの水音は、そこの水路の段差のようですね」

たしかに、これから向かう道に沿って小さな川が流れていました。

この流れと分かれた片割れが、坂下の滝につながっているのでしょうか?

ゆるゆると上がる斜面には、何本も、リンゴの木が実を付けています。

青い実に顔を寄せてみると微かに、夏の日差しを吸った、爽やかな甘いにおいがしました。

「色付くのはまだ、ひとつき、ふたつき、先になりそうですね」

まだまだ青い奥久慈のリンゴは、これから山に注ぐたっぷりの日差しと、たっぷりの水で、ゆっくりと赤く、甘く、熟していくのでしょう。

りんご園をめぐるなだらかな道を振り返ると、大きな雲がゆっくりと向こうの山から顔を出していました。

「雨に降られる前に行きましょうか」

「山の天気は気まぐれですからね」

日差しをたっぷり浴びた山のリンゴが、甘く赤く、ぷっくりと丸くなる秋の夕焼け頃に、また会いしましょう。

ではみなさま、今週も、よいしゅうまつを。

いちろうりんご園:

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