大子町のりんご園より
緩やかな坂の先には、なだらかな斜面に広がる一面のリンゴ畑がありました。

ゆるゆると続く坂が大きく曲る角に、見事なリンゴの木が待っていました。
重たげにしなる枝に、たくさん、リンゴが実っています。
「このあたりは、リンゴがたくさん採れるんですよ」
「リンゴはもっと北の方だと思っていました」
「山を一つ二つ越えたら、もう、隣の県ですからね」
来た道を振り返ると、大分、峠道をのぼってきていたようです。

夏の日差しよりも、まるで水の中を漂うような、纏わり付く緑のにおいを濃く感じるのはなぜでしょうか。
どこか近いような、遠いような場所で、水の音がしました。
「坂の途中から森の中に入ると、小さい滝があるんですよ」
「ああ、なるほど」
「でもこの水音は、そこの水路の段差のようですね」

たしかに、これから向かう道に沿って小さな川が流れていました。
この流れと分かれた片割れが、坂下の滝につながっているのでしょうか?
ゆるゆると上がる斜面には、何本も、リンゴの木が実を付けています。

青い実に顔を寄せてみると微かに、夏の日差しを吸った、爽やかな甘いにおいがしました。

「色付くのはまだ、ひとつき、ふたつき、先になりそうですね」
まだまだ青い奥久慈のリンゴは、これから山に注ぐたっぷりの日差しと、たっぷりの水で、ゆっくりと赤く、甘く、熟していくのでしょう。

りんご園をめぐるなだらかな道を振り返ると、大きな雲がゆっくりと向こうの山から顔を出していました。
「雨に降られる前に行きましょうか」
「山の天気は気まぐれですからね」
日差しをたっぷり浴びた山のリンゴが、甘く赤く、ぷっくりと丸くなる秋の夕焼け頃に、また会いしましょう。
ではみなさま、今週も、よいしゅうまつを。
いちろうりんご園:
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