涸沼の日暮れ

「釣れますか?」と聞くと、「ぼちぼちですね」と釣り人は答えた。
もうそろそろ、遠い山に日が落ちる。
ばぶ&マト 2024.08.23
誰でも

細くくねりながら続く坂の先に、湖がありました。

有史前から海とつながる湖は「涸沼」と呼ばれているそうです。涸れた沼。不思議な名前です。

涸沼は、6,000年ほど前、海の底でした。

海よりもずっと小さな波が、寄せては返しています。

昼と夜の境目のような岸辺を歩くと、今も微かに潮の匂いがする気が。

「関東では唯一の汽水湖だそうですよ」

彼が言う。なるほど、確か涸沼はしじみが獲れるはずです。

夕暮れに染まる岸に、ざくざくと石を踏む音だけが二人分。

ふと気付くと、目の前に鳥居がありました。

「釣れますか?」

鳥居の先に見える人影に声を掛けると、釣り糸を垂れた人は「ぼちぼちですね」と笑いました。

「お邪魔をしないように行きましょうか」

「そうですね、そろそろ誰そ彼時ですから」

6,000年前も、多分1,000年後も、同じ岸辺の夕暮れでまた会いましょう。

ではみなさま、今週も、よいしゅうまつを。

涸沼自然公園:

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